経験の「質」を高めるのは、上司の修羅場創造力

今回は、私が大切にしている人材育成の原則、
【ビジネス体幹】=経験の総量(数 × 質 × 幅)+ 人柄価値
の中から、今回は「経験の質」について考えてみたいと思います。

人を大きく成長させる「修羅場経験」

経験の質を高めるうえで、重要なのが「修羅場経験」です。

予定どおりに仕事が進まない。
顧客から厳しい要求を受ける。
関係部署との調整が難航する。
正解がわからないなかで、自分で考え、決断し、何とか答えを出さなければならない。

こうした経験が、人を大きく成長させます。

ただし、修羅場は特別なプロジェクトや大きなトラブルの中だけで生まれるものではありません。
日常の仕事であっても、上司の関わり方次第で、成長につながる修羅場に変えることができます。

私は、この「修羅場創造力」こそが、経験の質を高め、ビジネス体幹の強い人材を育てる上司の必須要件だと考えています。

経験の質を高める3つのポイント

例えば、若手社員に顧客への提案を任せる場面を考えてみましょう。

顧客の状況を調べ、提案内容を考え、実際に顧客と向き合い、その結果を受け止めるところまで本人に任せる。
上司は必要な支援をしつつも、本人が自分で考え、決断する余地を残しておく。

それだけで、同じ仕事でも経験の質は大きく変わります。
経験の質を高めるために、私が重要だと考えるポイントは3つあります。

① 本人の判断が必要な仕事を任せること
言われたとおりに作業するだけでは、判断力は鍛えられません。
何を優先するのか。誰に協力を求めるのか。どの選択肢を取るのか。
自分で考え、決める場面を意図的につくることが重要です。

② 結果に向き合わせること
自分の判断によって結果が変わるからこそ、人は真剣に考えます。
うまくいかなかったときも、上司がすぐに後始末をして終わりにするのではなく、本人が原因を考え、次の打ち手を決めるところまで経験させる。
結果に責任を持つ経験が、次の成長につながります。

③ 経験を振り返り、次の判断につなげること
何がうまくいき、何を見誤ったのか。次に同じ状況になったら、どう判断するのか。
経験は、ただ積み重ねるだけでは十分ではありません。
振り返りを通じて学びを整理することで、一度きりの出来事が、次にも活かせる力へと変わっていきます。

上司に求められるのは「任せる胆力」

では、上司はどうすれば、こうした修羅場をつくり出せるのでしょうか。
ここで重要になるのが、修羅場創造力を構成する「胆力」です。
上司は、部下が失敗する姿を見たくありません。自分でやったほうが早く、確実だと感じる場面も多いでしょう。
それでも、任せる。

任せることでしか人は育たないと信じる力。これが胆力です。

自分がやれば80点の仕事が、部下に任せると50点になることもあります。

それでも、すぐに仕事を取り上げない。
答えを教えない。本人が考え、悩み、決断する機会を奪わない。
もちろん、取り返しのつかない失敗を防ぐための支援や備えは必要です。
しかし、失敗を避けるあまり、成長の機会まで取り除いてはいけません。

任せると決めたら、任せる。

この胆力があってこそ、上司は部下が成長する修羅場をつくり出せるのです。

立場が上がるほど、任せるものは変わる

修羅場創造力は、若手社員の育成だけに必要なものではありません。
新入社員には、自分で考えて仕事を進めることを。
若手管理職には、チームの問題を判断し、人を動かすことを。
部長には、部門間の利害を調整し、組織全体のために決断することを。
そして役員には、会社の将来を左右する経営判断を。

立場が上がるほど、任せるものは「作業」から「判断」へ、そして「経営そのもの」へと変わっていきます。

それぞれの成長段階に応じた修羅場を意図的につくることが、組織全体の成長につながるのです。

修羅場のある職場こそ、人が成長できる職場

「修羅場だらけの職場」と聞くと、一見、ブラック企業のように思えるかもしれません。
しかし、私が考える修羅場とは、単に厳しい環境に部下を置くことではありません。
本人の成長を信じ、挑戦する機会を与え、必要なときには支える。そして、その経験を次の成長につなげていくことです。

修羅場を意図的につくり出せる職場こそ、人が成長したいと思える、魅力あふれる企業なのではないでしょうか。

人を育てるとは、答えを教えることだけではありません。
自分で答えを出す経験を、どれだけ与えられるか。
そのために、上司自身がどれだけの胆力を持てるかが問われているのだと思います。

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<この記事を書いた人>

株式会社AMBソリューションズ
藤野 匡生(ふじの まさお)

企業経営者、大企業の経営企画、シンクタンクでの経営・人事コンサルタントなどの豊富なビジネス経験を重ねて、人事の実務ノウハウやベストプラクティスの可視化、ナレッジマネジメントの重要性を確信。
これまで、100 社を超える企業に人事課題のアドバイスを提供。

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