~若手を育てるなら、“打席”を増やそう~
前回、「藤野の育成原則」として、
ビジネスパーソンの体幹 =経験の総量(数 × 質 × 幅)+ 人柄価値
という考え方をご紹介しました。
そして、経験には「数」「質」「幅」という3つの要素があり、
これらは足し算ではなく、掛け算であるというお話をしました。
今回は、その中でも「経験の数」について考えてみたいと思います。
「経験の数」とは何か?
経験の数を増やすには、どうすればよいのでしょうか。
たとえば営業の仕事で考えてみます。
一番分かりやすい指標は、「何件のお客様と接点を持ったか」でしょう。
100件のお客様と商談した人と、10件しか商談していない人では、
経験の数に違いがある。これは分かりやすいと思います。
ただ、私はそれだけでは少し大雑把だと考えています。
もっと小さな経験も、立派な「経験」だからです。
たとえば、1社のお客様との商談を細かく分解してみます。
・顧客を選定する
・顧客の状況を調べる
・どのような提案をするか、社内でシミュレーションする
・実際に顧客へ提案する
・持ち帰ったニーズをもとに、関連部署と調整する
・顧客の反応を踏まえて、再提案する
そして最終的に、受注することもあれば、残念ながら失注することもあります。
私は、この一つひとつを「打席」として捉えてよいと思っています。
なぜなら、それぞれの場面で「どうするか」という意思決定が必要だからです。
大きな仕事を「小さな打席」に分解する
人を育てようとすると、
「このプロジェクトを任せてみよう」
「この顧客を担当させてみよう」
と、大きな仕事単位で考えがちです。
そして半年後、1年後に「成長したか」を見る。
もちろん、それも一つの育成方法です。
ただ、それでは経験を積むスピードが遅くなってしまいます。
一つの大きな仕事を小さな単位に分解し、短いサイクルで何度も判断し、行動する機会をつくる。
これによって、同じ半年間でも経験できる「打席数」は大きく変わります。
「代打」をどれだけつくれるか
もう一つ、経験の数を増やすうえで大切なのが、「代打」の機会を増やすことです。
たとえば、上司や先輩が休んだ日に、
若手社員が代わりに顧客対応をする。
会議に参加してみる。
プレゼンの一部分を任せてみる。
社内説明を担当してみる。
本来の担当者でなくても、まずは「代打」として打席に立たせてみるのです。
もちろん、最初からすべてを一人で任せる必要はありません。
先輩が横でサポートしながら、まずは一部分だけを任せてもいいでしょう。
大切なのは、「まだ早いから」と見学させ続けるのではなく、小さくても本人が判断し、行動する機会をつくることです。
こうした代打の積み重ねが、経験の数を増やしていきます。
失敗した人から「打席」を奪わない
そして、もう一つ大切なことがあります。
失敗した社員に、もう一度打席を与えることです。
一度失敗した社員に、次の機会を与えない。
失敗を理由に、その後の仕事を限定してしまう。
これでは、経験の数は増えていきません。
むしろ、
「なぜうまくいかなかったのか」
「次はどうすればよいのか」
を一緒に振り返ったうえで、もう一度打席に立たせる。
「失敗したから外す」のではなく、「失敗したからこそ、次の打席をどうつくるか」を考える。
この繰り返しが、ビジネスパーソンの体幹を強くしていくのだと思います。
AI時代、人材育成のスピードも変わる
AIによって、仕事そのもののスピードはますます速くなっています。
これまで数時間かかっていた資料作成や情報収集が、短時間でできるようになる。
だからこそ、人材育成についても、
「一つの仕事を長く経験させる」
だけではなく、
「短い期間で、何度も打席に立たせる」
という発想が、これまで以上に重要になるのではないでしょうか。
経験の「数」は、待っているだけでは増えません。
人事と現場が意識して、社員が挑戦できる打席をつくる。
レギュラーになるまで待つのではなく、まずは「代打」でいいから打席に立たせてみる。
そして失敗したら、振り返って、もう一度打席に立たせる。
人を育てるとは、教えることだけではなく、「経験できる機会」を意図的につくること。
その積み重ねが、AI時代にも通用するビジネスパーソンの「体幹」を鍛えていくのだと、私は考えています。
===========
<この記事を書いた人>
株式会社AMBソリューションズ
藤野 匡生(ふじの まさお)
企業経営者、大企業の経営企画、シンクタンクでの経営・人事コンサルタントなどの豊富なビジネス経験を重ねて、人事の実務ノウハウやベストプラクティスの可視化、ナレッジマネジメントの重要性を確信。
これまで、100 社を超える企業に人事課題のアドバイスを提供。
